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ナラティブアプローチに効果はあるのか?創始者の歴史と社会構成主義の影響、実践事例についてわかりやすく説明します

実践中

今回は、ソーシャルワークにおけるナラティブアプローチに焦点を当てて説明します。

この記事を読むと

  • ナラティブアプローチについて理解できる
  • ナラティブアプローチの介入技法について理解できる
  • ナラティブアプローチの実践事例と特徴について理解できる
ビシア

ナラティブアプローチってソーシャルワークではそんな有名じゃない気がするけど?

羽毛さん

たしかに。でも、特徴的でクライエントとの関係性で悩んでいたら、ナラティブアプローチを使用するといいいかもね。ガラッと関係性が変わるかも。

目次

ナラティブアプローチとは何か?歴史と社会構成主義との関係


ナラティブアプローチの基本的な考え方

ナラティブアプローチにおける基本的な考え方は、人間の経験やアイデンティティは物語を通じて構築されるというものです。私たちの生活や自己認識は、個々の経験を繋げる物語の連続として理解されます。つまり、人生は物語であり、その物語を通じて私たちは世界と自分自身を理解するのです。

このアプローチは、人が自分の物語を語ることで、自分自身や問題を新しい視点から見直しができると考えます。物語性を持つ経験は単なる出来事ではなく、その人の価値観や信念、社会的文脈と結びついているため、物語を語る行為自体が変容のプロセスとされています。

このプロセスにおいて、重要なのは聞き手の役割です。ナラティブアプローチは、支援者がクライエントの物語を尊重し、共感的に受け止め、問題を新しい物語へと再構築する手助けをします。ここでの目標は、人々が自分の物語を再定義し、より充実した意味を見出すことにあります。

人生の困難や挑戦は、物語の中で解決可能な障害として描かれ、個人がその物語の主人公として能動的に参加することが促されます。このように、ナラティブアプローチは、人々が自分自身の物語の作者として、より前向きな自己イメージや将来像を構築するための枠組みを提供するのです。

ナラティブアプローチの歴史と創始者

ナラティブアプローチの歴史は、文化、社会、個人の価値観や信条に関するより深い理解と敬意を基に構築されています。マイケル・ホワイトとデビッド・エプストンの初期の作業から、このアプローチは世界中で進化し続け、多文化的な視点や異なる生活体験を含むように拡がっています。

これは、ナラティブアプローチが持続的な成長と変化の可能性を秘めていることを示しており、これからも多くの人々の生活にポジティブな影響を与え続けることでしょう。

ナラティブアプローチの創始者は、オーストラリアの社会福祉士であり心理療法士のマイケル・ホワイトと、ニュージーランドの心理療法士デビッド・エプストンです。1980年代初頭、彼らはこれまでの心理療法が個人の問題に焦点を当てすぎていると感じ、人々が持つ物語やストーリーの力を活用する新しい形の療法を模索し始めました。

ホワイトとエプストンは、個人が自己と世界を理解する枠組みとして「物語」を用いることに注目し、ナラティブアプローチの基礎を築き上げていきました。

このアプローチは、個人が自分自身を物語の主人公と見なし、自分の人生に対する新しい意味を見出す機会を提供することを目的としています。ホワイトとエプストンは、話される物語が人々の自己認識や他者との関係を形成し、変化させる力を持っていると信じていました。

彼らの功績は、伝統的な心理療法に対する大きな挑戦であり、人々が自分自身とその経験をどのように語り、意味づけるかに焦点を当てることで、心理療法の領域に新たな視野を開いたのです。

ナラティブアプローチの歴史は、1980年代にその根幹となる理念が確立されて以来、多様な分野での応用を見てきました。社会福祉、心理療法、教育、組織開発など、様々な領域でこのアプローチが採用されています。その理論の発展に伴い、ナラティブアプローチは個人の自己認識を再構築し、ポジティブな変化を促す有効なツールとして認識されるようになりました。

ナラティブアプローチと社会構成主義

ナラティブアプローチと社会構成主義は、深く絡み合っています。ナラティブアプローチが個人の物語やストーリーの重要性に焦点を当てる一方で、社会構成主義は、これらの物語がどのように社会的文脈や対話を通じて形成されるかを考察します。社会構成主義の視点から言えば、私たちの認識や理解は、単に個々の経験から生まれるのではなく、社会的な交流やコミュニケーションの中で構築されます。

物語は、個人が世界を理解し、自身と他者を位置づけるための主要な手段です。しかしながら、社会構成主義はこれらの物語が社会的、文化的な力と密接に関連していることを示しています。

例えば、文化的ステレオタイプや社会的期待は、個人が自己の物語をどのように構築し語るかに大きな影響を与えます。ナラティブアプローチでは、こうした社会的な枠組みを認識し、挑戦し、再構築することによって、クライエントがより肯定的で自律的な自己物語を作り上げるのを支援します。

ナラティブアプローチと社会構成主義の結びつきは、物語が個人だけではなく、社会的な存在としての私たち自身を形成する重要な手段であるという理解を深めます。個人の体験や物語は、社会的な言語や規範、価値観といったものによって影響されるため、このアプローチはクライエントがこれらの社会的な構造から影響を受けるさまざまな物語を認識し、新しい物語を発見し創造する手助けをします。

ナラティブアプローチは単に個人の心の中で起こる変化を促すのではなく、個人の社会的な世界にもポジティブな変化をもたらす可能性があります。

社会構成主義の視点を取り入れたナラティブアプローチは、個人が自らの物語を通じて強みや能力を再認識し、より有意義な人生を築く手助けをします。

このアプローチは、文化的、社会的な多様性を理解し尊重することの重要性を強調し、異なる背景を持つ人々の物語に耳を傾けることで、より包括的で公平な社会の実現に貢献することもできます。

ナラティブアプローチの効果

ナラティブアプローチの支援プロセス

ナラティブアプローチにおける脱構築

ナラティブアプローチにおける脱構築は、人々が自己や世界を理解するために構築した物語の分析と再評価を意味します。この過程では、個人が持っている物語の中に潜んでいる権力関係、信念体系、または社会文化的慣習を明らかにし、それらが個人の生活やアイデンティティにどのように影響を与えているかを理解しようとします。このような分析を通じて、個人は自らが無意識のうちに受け入れや安定させていた物語を再考し、より建設的または自己にとって意味深い新しい物語を作り出すことが可能になります。

脱構築のプロセスにおいては、まず現在の物語がどのようなものであるかを詳細に理解します。これは、クライエントがどのような物語を自分自身について語っているのか、またその物語が如何に彼らの考えや行動に影響を与えているかを聞き出すことから始まります。例えば、失敗を経験したことで「自分は何をしてもうまくいかない」という物語を内面化している人がいるとします。この物語は自己効力感を低下させ、新たな挑戦から避けるようになるかもしれません。

次に、その物語がどのように構築されたのか、どのような要素がそれを強化しているのかを探ります。多くの場合、物語は過去の経験や周囲の人々、社会文化的な価値観や期待と密接に関連しています。ここで重要なのは、個々の物語が単に個人的な経験に基づくだけではなく、より広い社会文化的な文脈に根ざしていることを理解することです。

そして、脱構築の核心にあるのは、物語の中に存在する代替の解釈や見落とされがちな側面を探ることです。これには、物語におけるある特定の出来事や詳細に注目し、それらが異なる文脈や視点からどのように理解され得るかを考察します。例えば、失敗をただの失敗とみなすのではなく、成長や学びの機会として捉え直すことで、新たな物語を構築することができます。

脱構築を通じて、クライエントは自らの物語に疑問を投げかけ、それを再構築することが可能になります。これは自己認識を深め、より柔軟で開かれた自己理解へと導くことができるプロセスです。ナラティブアプローチにおける脱構築は、ただ単に物語を壊すことではなく、より豊かで多様な物語へと再構築するための手段として機能します。この過程を通じて、人々は自分自身や周囲の世界に関するより幅広い理解に到達することができるのです。

ナラティブアプローチにおける再構成

ナラティブアプローチにおける再構成は、個人が自己理解や自己認識のために使用している物語を、より積極的かつ建設的な方法で書き換えるプロセスです。再構成の目的は、個人が自分自身や周囲の世界を捉える物語を、より役立つもの、自分自身の成長や幸福に寄与するものへと変化させることにあります。

ステップ1: 現在の物語の認識

再構成の第一歩は、クライアントがどのような物語を自分自身について語っているのかを明確に理解することです。この段階で大切なのは、その物語がクライアントの行動や感情、思考にどのような影響を与えているかを把握することです。例えば、「自分は十分に良い親ではない」という物語は、自信のなさや罪悪感を生み出し、親としての行動にも影響を与えるかもしれません。

ステップ2: 代替物語の探索

次に、現在の物語に挑戦し、異なる、より前向きな物語を探索します。これは、クライアントの過去の経験や現在の状況を異なる視点から見直すことを含みます。例えば、親としての失敗を反省する代わりに、子育ての中で成長や学びの機会を見出すことができます。この過程で、クライエントは自分自身のストーリーの主人公として自己効力感を高め、前向きな変化を生み出す能力があることを認識し始めます。

ステップ3: 新たな物語の形成と実践

代替案を探し、探索した後、クライエントは新たな、より前向きな物語を形成し、それを実生活に統合する方法を考えます。これは、新しい物語が日々の行動や決断にどのように反映されるかを具体的に計画することを含むかもしれません。例えば、親としての自信を高める物語を採用することで、親子の時間をもっと楽しむための新しいアクティビティや風習を取り入れることができるでしょう。

ステップ4: 物語の継続的な評価と調整

新しい物語を採用した後でも、その物語がクライエントの成長や変化に伴って引き続き役立つように、定期的な評価と調整が重要となります。人生の変化や新たな経験は、物語を微調整する必要があることを示すかもしれません。この柔軟性が、クライアントに自分自身の物語に積極的に関与し続けることを促します。

再構成の過程を通じて、クライエントは自分自身を新しい光で見ることができ、自己理解と自己受容の深化を経験します。このようにして、ナラティブアプローチは個人がより充実した、意味のある人生を送るための道筋を提供します。

ソーシャルワークとナラティブアプローチ 私の体験と事例を含めて

ソーシャルワークとナラティブアプローチとの関係性

ソーシャルワークとナラティブアプローチは、互いに深く関連しており、高い親和性を持っています。ソーシャルワークは、個人の権利と尊厳の保護、社会的公正の促進、そして人々がその生活の質を向上させるための支援を目的としています。ナラティブアプローチは、個人やコミュニティの経験や物語を重視することで、人々が自身の生活と課題に新しい意味を見出し、よりポジティブな自己認識を構築するのを支援します。この点で、ナラティブアプローチはソーシャルワークの根底にある価値観と密接に合致しています。

ソーシャルワークにおいては、個人が直面している問題や課題を単に症状として捉えるのではなく、その人の生活全体や社会的文脈の中で理解しようとする傾向があります。ナラティブアプローチを取り入れることで、ソーシャルワーカーはクライエントの物語をじっくりと聞き、その人が抱える問題をその人自身の言葉と視点で捉えることができます。クライエントが自分自身について語る際、個々の体験や思いが重要な情報源となります。この過程において、ソーシャルワーカーはクライアントが抱える問題だけでなく、クライエントの強みや資源も見つけ出すことができます。

また、ナラティブアプローチはソーシャルワークにおける対話と関係構築の重要性を強調します。クライエントと共に問題を探究し、新しい可能性を検討するプロセスは、ソーシャルワークの核となるサポートのあり方である共感的理解と能動的聴取を反映しています。このように、ソーシャルワーカーはナラティブアプローチを用いることで、クライアントが主体的に自分の物語を再構築し、変化を促進するための安全な空間を提供することができます。

このように、ソーシャルワークとナラティブアプローチの間には強い関係性と親和性があります。ナラティブアプローチは、ソーシャルワークが目指す個人の尊重、社会正義の促進、そして人々が直面する課題に対処する方法の探求という基本的な価値観に沿った方法論として、高い効果を発揮します。

私の体験と実践事例

ナラティブアプローチを用いたケーススタディを紹介しましょう。ある若者が、過去の失敗によって自己評価が低く、未来に対しても悲観的な視点を持っていたとします。カウンセリング(ソーシャルワーカーはカウンセリング技術を援用します)の中で、支援者は彼の生きてきた物語に焦点を当て、彼が語るストーリーの中で光る瞬間や、彼の価値観や強みに注目します。支援者は、特定の出来事の意味を再考させる質問を通じて、若者が自分自身について新たな物語を創造する手助けをします。

例えば、「その失敗から何を学びましたか?」「他にもあなたが乗り越えた困難はありますか?」といった問いかけが役立ちます。これにより、若者は自分の失敗を成長の機会として再解釈し、これまでの困難を乗り越えてきた自分の能力を認識し始めます。結果として、彼は自己受容を深め、未来に向けて前向きなステップを踏み出すことができるようになるのです。

このように、ナラティブアプローチは人々が自己の物語を再構築することで、問題解決や自己成長を促す強力な手段となり得るのです。

私の体験を一つお伝えします。

ソーシャルワーク領域でナラティブアプローチを単体で使うことは稀でしょう。私はクライエントが自分自身を責める傾向にあったとき、「自分自身を責めない時」について語ってもらいました。難しい言葉を使うとクライエントの「ドミナントストーリー」を見直してもらい、これまでにない(と思いこんでいる)結果を語ってもらうことによって脱構築を試みました。

最初は「ない」の一点張りでしたが、じっくりと話しを聞くと確かに「自分を責めないとき」はありました。そして責めないときはクライエント自身が自分を認めることができるときであることがわかりました。

クライエント自身も自身のなかで物語が変わった瞬間だったのでしょう。それからはスムーズに目の前にある課題にとりくむことができるようになりました。

ナラティブアプローチをわかりやすくまとめると

ナラティブアプローチは、個人の経験やアイデンティティが物語を通じて構築されるという考えに基づきます。このアプローチは、マイケル・ホワイトとデビッド・エプストンによって開発され、個人が自らの物語を再構築し、ポジティブな自己イメージを形成することを助けます。物語の脱構築と再構成を通じて、個人はより意味深い人生を送るための新しい視点を得ることができます。ソーシャルワークにおいて、このアプローチはクライエントの体験を重視し、社会的文脈の中で問題を理解するために用いられ、個人が自分自身と社会に対するより有意義な物語を創り出す支援をします。

まとめ

  • ナラティブアプローチは、人間の経験やアイデンティティが物語を通じて構築されるという考え方に基づいている。
  • 人の生活や自己認識は、個々の経験をつなげる物語の連続として理解される。
  • ナラティブアプローチでは、人が自分の物語を語ることで、自分自身や問題を新しい視点から見直すことが可能になる。
  • 物語を語る行為は、その人の価値観や信念、社会的文脈と結びついており、変容のプロセスとされる。
  • ナラティブアプローチは、支援者がクライエントの物語を尊重し、共感的に受け止めることで、問題を新しい物語へと再構築する手助けをする。
  • ナラティブアプローチの創始者は、マイケル・ホワイトとデビッド・エプストンである。
  • このアプローチは、人々が自分自身の物語の作者として、より前向きな自己イメージや将来像を構築するための枠組みを提供する。
  • ナラティブアプローチと社会構成主義は深く絡み合っており、物語が社会的文脈や対話を通じて形成されることを考察する。
  • ナラティブアプローチにおける脱構築は、人々が自己や世界を理解するために構築した物語の分析と再評価のプロセスである。
  • ソーシャルワークとナラティブアプローチは互いに深く関連しており、ソーシャルワーカーはクライエントの物語をじっくりと聞き、その人が抱える問題をその人自身の言葉と視点で捉えることができる。
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